sfcgo’s diary

読書したら感想を投稿しようと思います。

【読書レビュー】自分ごとの政治学

 

 

1.本書を手にした理由

 2021年10月現在、自民党の総裁選(岸田さんに決定)や衆議院選挙を控え、政治を巡る報道を見聞きする機会が増えてきました。これまで政治・選挙というと、個人的には自身の生活との関わりを感じにくいものでした。しかし、新型コロナの感染に対する政府の方針・対策は、生活に大きな影響を及ぼしました。感染対策をテレビで説明する政治家達を度々目にすることで、改めて「自分にとって政治って何?」と疑問を感じました。 

2.あらすじ 

 本書は政治を身近なものとして捉え、考えていける様にするための手助けを目的としています。第1章、2章では、右派、左派等の基本的な政治用語、政治の前提となる概念を説明しています。政治では、右派対左派という対立軸で考えがちですが、現代ではあまり有効ではなくなっており、別の対立軸を提示しています。

 第3章では、著者が長年研究しているインドの独立運動家で政治家のガンディーについて解説しています。イスラム教徒とヒンドゥー教の対立が激化していたインドで、政治と宗教は難しいと考え、宗教の違いがあっても価値観を共有できると考えました。ガンディーを見ると、「政治の基本的な部分となる、簡単には分かり得ない他者を結びつける方法の模索」のヒントがあります。

 第4章では、民主主義を考える上で重要な立憲主義について触れています。民主主義とは乱暴に解釈すれば、多数派の意見を採用することです。これ対して立憲主義とは、多数を占める意見があっても、憲法の制約は無視できないという点です。つまり、多数の民意よりも憲法のルールを重視するというのは、過去の人が作ったルールを優先することです。著者は現代の民主主義を優先しすぎる政治に対して、立憲主義と民主主義のバランスが重要であると主張しています。

3.個人的に特にタメになった3点

◆日本は小さな政府

 政治では、「お金」つまり国家予算をどのように配分するかはとても重要な仕事です。これには大きく2通りの考え方があり、「リスクの個人化」と「リスクの社会化」です。

「リスクの個人化」とは、災害等で自身が被災した場合、国には頼らず個人で対応し、自己責任で対応する考え方で、税金が安くなります。一方で「リスクの社会化」とは、国家予算を大きくし、例えば、災害に遭遇しても、国が手助けしてくれるような手厚い社会ですが、それだけ税金が高くなります。

 私は、今まで日本は税金が高い国だと思い込んでいましたが、本書によると先進国の中ではそうではない様です。いろんなニュースを見ていると、減税、公務員削減を求める声ももちろんありますが、コロナ対策給付金を求める声、子育て支援の強化など、どちらかと言えばセーフティネットの強化を求める声、つまり大きな政府を目指してほしいと声が大きいように思います。

◆ガンディーの人物像

 私はガンディーについて不勉強でしたが、本書を通して少しばかり理解を深めることが出来ました。個人的には嬉しい収穫です。

「欲望のままに生きるのではなく、しっかりと自己をコントロールできる人間が行う政治こそが真の自治、真の独立であると考えた。」

 

自治は成熟した人たちだけが享受できるもので奔放な人たちにはできません」

 宗教を巡る対立は今も世界各地で続いるのを見ると、ガンディーが目標としたレベルはまだまだ道半ばといったところでしょうか。ネットの普及により、Twitter等のSNSを通じて、多様な意見を見聞きできるようになり、これ自体は良いことですが、一方で極端な意見や誹謗中傷するコメントが相次ぎ問題になっています。価値観の違いを受け入れる難しさ、克服していける成熟さは個人的にも意識して取り組む必要があります。

立憲主義

 第4章では「立憲主義」について詳しく説明していましたので、紹介します。

「端的にいえば、戦後に日本が民主主義的な決定を絶対視し、立憲という古くさいもの、民主的な決定を邪魔するものとしてとらえてきた。」
憲法というのは、死者が積み重ねた失敗に末に、経験知によって構成した「こういうのはやってはいけない」というルールです。過去の人々が未来に対して「いくら過半数がいいといっても、やってはいけないことがあるよ」と信託している。」

 本書では民主主義と立憲主義は根本的には根本には相容れないものと指摘しています。何か問題が起きた時に、本書を通じて立憲主義の定義を改めて認識することで、自分の考えの立ち位置を客観的に捉えるのに役立ちます。

4.お勧めしたい方

  1. 政治は自分に関係ないと諦めている方
  2. ガンディーについて知りたい方
  3. 立憲主義について知りたい方

5.感想

 個人と政治の関わりについて要約すると、著者は最後にこのように述べています。

「国際関係、政局がどうかも大事だが、普段の生活(食べ物、買うこと、移動することなど)を意識すれば、必ず政治問題に辿り着きます。毎日を丁寧に生きなければ、本当の政治には出会いません」

 新型コロナウイルスによる行動制限によって、私は少し窮屈な生活を強いられています。(その程度ですんでいるのは幸いですが)あくまで個人的な意見ですが、特定の業種(飲食店等)に厳しい制限をかけざるを得ないのであれば、しっかりとした補償をして欲しいと思います。

 メディアと通じて見聞きする経済・外交問題を中心に見ていると、自分との関わりがあまり見えてこないことがありますね。そのような時は、普段の生活について少し注意深く観察すると良いと思います。

 それから、「3.個人的に特にタメになった3点」にも書きましたが、ガンディーや立憲主義については正直全然知らなかったのですが、その点を本書で学べたのは良かったです。

6.書籍情報

出版社;NHK出版

著者;中島岳志

電子版発行日;2020年12月