sfcgo’s diary

読書したら感想を投稿しようと思います。

【読書レビュー】まちづくり幻想ー地域再生はなぜこれほど失敗するのかー

【タイトル】

まちづくり幻想ー地域再生はなぜこれほど失敗するのかー

  

  

 

 

【本の紹介】

 地方在住の私にとって、「自分の住む街が将来に亘って活気に溢れてくれれば・・・」。仕事柄まちづくりには直接携わっていませんが、そんな単純な動機で本書を手に取ることにしました。

 著者はまちづくり計画に長く携わっており、数多くの経験から大切な考え方(とりわけ、陥りやすい考え)を示しています。恐らく、思うような結果を得られない経験をたくさん積んできたのだと思います。 まちづくりは、かなりシビアで実を結ばないことが多いんだなと感じ、読後感としては正直重たいです・・・

 そんな貴重な経験から生まれた本書だからこそ、価値のある一冊だと感じます。

 ざっくり言いますと、まちの活性化には、直ぐに結果がでるような戦略はなく、その地域における状況を冷静に分析して、希望的観測は排除し、なるべく税金に頼らず、収支が黒字になるように計画を練り地道にコツコツとやっていくしかなくて、これが遠回りで唯一の近道だと理解しました。

 本書の趣旨とは少し違いますが、個人的にハッとさせられたのは、たとえ人口増加に転じてもその地域は活性化する訳ではなく、その地域が中長期に亘って、域外から稼げる産業基盤を築き、地域の平均所得が改善しなければ、その地域にお金が落ちないのでうまくいかないという点です。人口減少が地域活性化に悪影響なのは間違いありませんが、地域の人口が少なくても平均所得を改善することが重要です。ただ、これの解決がまた難しいのが今における地方の実態というのが辛いところです。

 まちづくりは一から事業を計画するようなものですから、これを成功させる人材、組織づくりは簡単ではありません。本書では、官あるいは民の立場であっても、その組織に長くいて出世していくと、どうしても中で最適化(慣れ)されてしまい、学ぶこと、努力することを疎かにしがちというのを指摘しており、私も気をつけなければなりません。

 

【あらすじ】

 日本は人口減少に転じているがとりわけ地方は深刻である。地方交付税交付金によって地方に予算配分し、行政は地域を活性化するための政策を行っているが、思うような成果が出ているところは少なく、東京一極集中は収まる気配がない。

 地域の活性化でよくあるのが、他の地域の成功事例を真似ることである。

 しかし成功まで至るには、限られた予算の中で試行錯誤・失敗を繰り返し、改善を続けているからである。成功事例を真似るだけで、自分は何一つ失敗せず、成功にこぎつけるのはないと言っていい。成功事例の多くは外から見れば華やかであるが、地道な努力の結果であり、外からみれば華やかに見えるだけである。

 

◇第一章コロナ禍で訪れる地方の時代という幻想◇

 半世紀前頃までは,電機産業を中心とした競争力のある企業が地方に進出し、活性化ができていた。この時期は,正社員という形で雇用されるので,身分も安定しそれなりの給与が支払われていたので,地域の内需が拡大した。

 しかし,今では工場が新設されても非正規雇用であったり,給与体系が低く設定されてしまい,長期的な雇用に結びつかない場合も多く,地域の発展に貢献しにくいケースも増えている。

  東京への一極集中が問題視されているが、コロナ禍でテレワークの活用により、地方で働ける環境が整備され、地方へ移住する人が増加するのではないかと期待されている。しかし、人口統計から言えば、今のところやや鈍化した程度に留まっている。

 もっとも、日本の人口減少は東京一極集中を解消したところでとまらないレベルであるため、人口回復に頼らず、付加価値の高い多様性のある地域の発展が重要である。

 地方の人口減少は地域産業が国の予算に頼ることで成り立っており、その結果として自力で稼ぐ力が弱くなってしまったからである。

 地方には観光産業に力を入れているところがあるが、その生産者は良かれと思って出来るだけ、良いものを安価で提供しようとする。しかし実は首都圏では相対的に高値がつくこともあるのだが、地方の生産者の中には、全国市場に向き合うことが少なく、価格設定を安めにしてしまうことがある。結果的にその生産地域の所得を下げてしまうことに繋がり、これも地域を衰退させる原因である。

◇第二章 えらい人が気づかない大いなる勘違い◇

 まちづくりとは、組織単位で考えがちで、個人の責任が曖昧になりがちである。だからこそ意識決定の裏側では、膨大な情報を精査し、自らの頭で考えてことをしっかりやっておく必要がある。トップの仕事は予算確保や事業のネタ探しよりも、そのような仕事をこなせる人事である。

  行政も人事に向き合い、民間から優秀な人材を登用したり、外部との接点を持ちさまざまな経験を積ませる取り組みも出てきている。

 意思決定者は直ぐに答えを求めがちで、他の地域成功事例を模倣したくなるが、初めて成功までこぎつけた事業というものは、失敗を積み重ねてようやく手に入れたもの。上辺だけをなぞっただけでは上手くいかないだろう。

 かつて盛んに行われたリゾート開発など、成功事例を他の地域でも水平展開してしまうと、供給が需要を上回ってしまい、競争激化を招き共倒れしている。

 意思決定者の中にはその地域の将来を悲観的に捉えていて、ただ残念ながらそのような者に救いの手が差し伸べられることは少ない。トップに求められるのはビジョンや夢であるが、これは非常に難しく、普段から思い描いてないと、語れるものではない。

 

◇第三章地域の人間関係という泥沼◇

 成功者は地域で妬まれてしまうことがある。成功者はより多くのリスクを負い、挑戦したにもかかわらずである。人口減少や、経済衰退の中で、成功者がでてしまうと、結果がてないのは自分のせいということになってしまう。結果が出ない人にとって、成功者というのは不都合なのだ。

 そのような妬まれる状況を打破するためには、なるべく行政の予算に頼らず、地道な成果を積むことである。

 地域の取り組みでは、みんなの和をなるべくみださないことを優先するあまり、責任者が不在となってしまうことがある。もし結果がでていないのであれば、その状況を打破しなくてはならない。主語は「みんな」から「私」に変え、いつまでに何をすべきかを議論する必要がある。

◇第四章 幻想が招く「よそ者」頼みの失敗◇

 地域独自のを検討する場合、その地域の色や特色に沿った内容であるべきであるが、その計画の多くは、各自治体や地元でなく、東京のコンサルティングに外注していたりする。外注が悪い訳ではないが、その地域の経済構造を掴んでおかないと、地域にお金が落ちない仕組みになってしまう。その地域の平均所得の改善につながる仕掛けが大事である。

 地域経済が上向くかどうかは、地元内と域外の収支がプラスかどうかである。外部のコンサルを活用するならば、上記の視点にも着目してほしい。

 もう一つ、お金の流れで言うと、年金は巨額である。年金は現役世代から高齢者にお金が流れている。年金の支給総額は約55兆円。高齢化が進んでいる地域こそ、ある意味でこの恩恵を受けている。しかし、高齢者の方々も亡くなってしまうので、年金によるその地域の内需は今後萎んでいまう。高齢者の子供は都市部に移住している場合が多く、相続される遺産と言う意味でも、地方から都市部というお金の流れが出来てしまっている。

  今の地方の業務の問題点は、計画するのも外注、開発するのも外注など、なんでもかんでも外注してしまい、自治体の能力が低下してしまっている。これをやり続けると自ら企画を考えたり、実行する能力も低下しまう。ある一定程度は内製化しておくべきだ。

◇第五章 まちづくりの幻想を振り払え!◇

 このようなプロジェクトは辛いシナリオに直面すると、どうしても希望的観測に陥りがちであるが、そこには現実があるだけで、冷静に分析しなくてはならない。夕張市のように、誤った判断を修正しないと次の世代に負の遺産を残しかねない。

 先へ進んでいく自治体と、そうでない自治体の違いは話しをしていると直ぐすぐに分かる。未来について語るか、過去について語るかである。先はすすむ自治体は自分達は今後どのように行動すべきかを語ってくれる。

 

 【感想】

 本書は私にとって中身が濃く、なかなか消化できなかったというのが本心で、まとめ切れなかったですが、学ぶべきことは多かったように思います。

 これまでは、公共施設が閉鎖するニュースを見聞きすると、税金を投入して存続すれば良いくらいにしか考えていませんでしたが、税金だけに頼って運営というのは長い目でみると望ましくないかもしれません。公共施設は税金によって運営されていて、それは正しい面としてありますが、公共サービスの提供と、その運営費をどう捻出するかについてはそのバランスを考えていかないといけません。

 本書の趣旨から少しずれますが、首都圏と地方の格差は、これまでは人口問題にくらいしか捉えていませんでした。地方は産業基盤が弱く、思うような職業や所得が得られないことが問題で、地方に稼ぐ力がない、魅力がないから人口問題が生じていると捉えた方が良いと感じました。